本日は少し長いのですが、「ちょっといい話」のご紹介です。
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昨秋、Tシャツをお買い上げいただいたお客さま I さん から、あるご相談を受けました。
旧海軍敷設艇(ふせつてい)「成生」(なりゅう)の写真を
ずっと探しているのですが、お心当りはないでしょうか?
詳細をお聞きしたところ・・・
I さんのご祖父様は旧海軍の水兵長で、乗組まれていた敷設艇「成生」は終戦間際、
潮岬沖で米潜水艦の雷撃を受けて沈没、多くの乗組と共に戦死されました。
軍歴証明書などからその事実を知った I さんは、お母さま( I 水兵長のお嬢さま)のために、
そして自らのために、最後のご奉公艇となった「成生」の写真を長年に渡り探し続けているが
どうしても見つからない、とのこと。
どちらかと言えば(というよりは圧倒的に)艦艇より航空機に興味がある私は
「とてもお力になれそうにない」と思いながらも、出来る限り調べてみることにしました。
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まずは手っ取り早いところから、
インターネット上の画像を徹底的に検索してみましたが、全く収穫なし。
次に、既刊の海軍艦艇写真集などに掲載されている可能性を探ってみました。
暇を見ては大阪の古本屋・古書店や図書館を巡り、幾つかの写真集をチェックしたのですが、
敷設艇画像は結構あるものの、やはり「成生」は発見できません。
個人的にほぼ万策尽きたため、あとは“その道の智者”にすがるしかない ~ ということで、
まず 『海軍倶楽部』 会員のNさん、『関西零戦搭乗員会』のUさんに相談し、
さらに、『海軍倶楽部』 総会で一度だけご挨拶させていただいたことのある
高名な海軍艦艇写真収集家 Kさんに(思い切って)手紙を書き、情報提供をお願いしてみました。
様々な方のご意見を聞くうち、今件の困難性?の原因が徐々に判ってきました。
空母、戦艦、巡洋艦など有名な大型艦に比べると、敷設艇、哨戒艇などいわゆる「小艦艇」の写真は
一般的に需要が少ない(失礼な言い方ですが)ため、発掘が十分に進んでいないようなのです。
つまり、小艦艇写真自体は決して少ないわけではなく、おそらく全国のご遺族様方のお手元に保管されているのですが、時間と手間・金をかけてそれらを地道に探し出そうとする方は極端に少ない、といった現状なのです。
その意味で、海軍艦艇写真収集家 Kさんに密かに期待していたのですが、
その後ご連絡は無く( ※ 本当はあったのですが、後述します )、何度かこちらからお電話しようかと考えたのですが・・・
Kさんといえば、多くの海軍艦艇写真集の巻末にそのお名前が確認できる 知る人ぞ知る権威 でいらっしゃいますので、
私ごとき「Tシャツ屋」が催促の電話を入れるのは、ど~~しても気が引けました。
そうこうしている内に何の成果も無いまま年が明け、2014年の正月を迎えます。
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元旦、数少ない年賀状を眺めていて・・・凍りつきました。
なんとKさんから年賀状が届いていたのです(もちろん、いただくのは初めて)
しかも、余白に以下の書き込みが・・・!
『 成生のP(写真)、探しまくったが無いので、お電話かけても出られませんでした 』
冷えぇぇぇえ!
Kさんは何度かウチにお電話されていたのでした。
たまたま留守電を設定し忘れた時にかけられたに違いありません。新年早々、顔面蒼白です!
神速でお電話して謝罪させていただいたところ、全く怒っていらっしゃらなかったので、いや~救われました(汗)
Kさんによれば、どうしても見つからないため、「大和ミュージアム」所蔵の写真資料まで当っていただいたそうで・・・
またまた恐縮至極となりました。
がしかし、その道の権威 ・ Kさんでも発見できなかったということは・・・「もうダメか」
そう観念した私は、I さんに経過と残念な結果をお伝えすることにしました。
I さんからは大変な感謝の言葉をいただきましたが、私個人としては、やぱりチョット残念!なのですね。
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その後、「成生」の件は忘れかけていたのですが・・・
5月のある日、「関西零戦搭乗員会」のUさんから驚きのメールが入ったのでした。
なんと、旧海軍制作の教育映画の中に「成生」がしっかり写っているというのです。
しかも、その映画 『海軍と体操』 は You Tube にアップされており、普通に閲覧可能とのこと。
早速確認したところ・・・なんと素晴らしいことか!
海上を疾駆する敷設艇のほぼ全景が数秒間に渡って写っており、
その舷側には右横書きカタカナでハッキリと「ウユリナ」の文字が!
更に驚いたことに、次シーンでは甲板上で体操に励む水兵さんたちの姿まで捉えている。
Uさんによれば、甲板の規模は明らかに敷設艇レベルであり、
従ってその体操映像も「成生」甲板上である可能性があるらしい。
さすがUさん、ありがとうございました!
▲ 映画『海軍と体操』2/2 よりキャプチャした敷設艇「成生」の勇姿と甲板上の体操風景です。
You Tubeでご覧になりたい方は
【コチラ】からどうぞ。7分05秒あたりから「成生」が登場します。
映像をご覧になった I さんが歓喜されたのは言うに及ばずですが、
一番喜ばれたのは I さんのお母様( I 水兵長のお嬢さま)だったそうです。
お母様がお父上( I 水兵長)に最後に会われたのは6歳の時、昭和20年春頃の舞鶴で、
白軍装のお父上に肩車してもらったことを今でも鮮明に記憶されておられるとのこと。
・・・柄にもなくジーンとしてしまいました (T_T)
この話を聞かれたUさんの一言が、妙に記憶に残っています。
「まだまだ戦後は終わっていない」
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今回は I さんのご了解を得て、この話を書かせていただきました。
たまたま探していた旧海軍艦艇、それも発見困難な小艦艇の姿が写真ではなく、映像で残っていたとは・・・
戦前の記録技術なども考え併せれば、ある意味「奇跡的」と言えるのかも知れません。
きっと、 I さんの決して諦めない熱意がミラクルを呼び寄せたのでしょうね(祝)